顎関節症は歯医者で治療できます
2020/1/20公開 (2024/7/20更新)「顎が痛い」「口が開きづらい」「音が鳴る」のような症状がでる顎関節症について説明します。
顎関節症の方のお悩みに多い、
- 顎関節症は何科にかかればいいのか
- 顎関節症は病院へ行くべきなのか
- 顎関節症を放置するとどうなるのか
のような疑問や、顎関節症の症状や原因、治療法など、このコラムではその辺りを解説したいと思います。
顎関節症は何科にかかればいいですか?
顎関節症の診断・治療を行うのは、基本的には歯科です。
ただし、全ての歯科医院で顎関節症を扱っているわけではありません。 顎関節症の治療は、虫歯や歯周病などの一般的な歯科治療とは全く発想が異なるので、全ての歯科医院で的確な診断と治療が受けられるわけではありません。 「顎関節症は専門外なので大学病院や口腔外科に紹介される」というケースもあります。
治療を行っている歯科医院でも、基本的な注意事項の説明をして、痛み止めの薬を出してから、とりあえずマウスピースを作って経過を見るという対応にとどまる場合が多いです。
それで治る場合もありますが、治らなかった場合にその先の対応ができないので、他の歯科医院を探して二度手間になってしまうこともあります。 やはり、顎関節症にある程度専門性を持って治療している歯科医院を探すのが賢い選択と言えます。
顎関節症治療が得意な歯科医院を探す方法
顎関節症をちゃんと診てくれる歯科医院を探すのは、意外と難しいものです。 たとえば以下のような方法があります。
大学病院や口腔外科を探す
歯科口腔外科と書いてあれば、まず間違いなく治療を受けることができます。
ホームページを見る
お近くの歯科医院のホームページを見たときに、顎関節症について書いてあれば、治療に力を入れているだろうという指標になります。
電話で問い合わせる
受診する前に、顎関節症治療が可能かどうか聞いてみることをおすすめします。 歯科医院によっては、顎関節症治療は保険外のみ扱っているという所もあるので、事前に確認しておいた方が良いでしょう。
かかりつけの歯科医院から紹介してもらう
専門性の高い治療を望む場合は、その事を現在通院している歯科医院側に伝えて、早めに専門機関に紹介してもらう方法もあります。
医科でも、整形外科などで顎関節症を扱っている医院はあるようです。 また、鍼灸院や整骨院でも治療が受けられる場合があります。
しかし、トータルに診断するのは歯科口腔外科の分野になりますので、まずは歯科から探していただくのが確実です。
顎関節症は病院へ行くべきですか?
「顎がカクカク鳴るけど痛みはない」「少し口が開けづらくなったが生活に支障はない」といった場合は、無理に受診しなくても良いことが多いです。 ただ、口の開け閉めの時に顎が痛む、口が開け難くなったなどでお困りの場合は、医療機関への受診をおすすめします。
顎関節症は、多くの場合、自然治癒する疾患と言われています。 つまり、病院に行かずに放置していてもいずれは治ってしまうことが多いのです。
しかし、自然に治らない場合もありますし、医療機関で適切な対応を取ることで治癒を早められる場合もあります。 「放置した事ですごく悪化し、治らなくなってしまった」というケースは案外少ないですが、通院が可能であれば、一度ご相談いただいた方が間違いないですね。
顎関節症とは
顎関節症と一言で言っても定義は広く、簡単に説明すると、
- 顎が痛い
- 口が開きづらい
- 顎関節から音が鳴る
のような症状が出る疾患だと考えてください。
詳しくは下に説明しています。
顎関節症の症状
顎関節症の主な症状には次のようなものがあります。
- 顎関節やその周辺に異常を感じる。食べ物を噛む時に痛みや異常を感じる。
- 食事をしているとあごがだるい、口を動かすと顎関節に痛みがある、噛みしめると顎関節が痛い
- 口を開けたり閉じるする時に顎関節でカックン、コッキンというような音がする。
- 口が開けにくくなったり、口の開閉をスムーズに行うことができない。
- 口が左右にうまく動かない、開けにくい、あごが外れることがある。
顎関節症が原因で、全身のいろいろな部分に次のような現れることもあります。 ただし、これらは顎関節症以外が原因でも起こる症状なので、顎関節症が診断できる医療機関での診察をおすすめします。
- 頭痛、首や肩・背中の痛み、腰痛、肩こりなどの全身におよぶ痛み
- めまい、耳鳴り、耳がつまった感じ、難聴
- 眼のつかれ、充血、涙が出る
- 鼻の症状(鼻がつまった感じがする)
- 顎が安定しない、噛み合わせがうまくできない。
- 歯の痛み、舌の痛み、味覚の異常、口が渇くような気がする。
- 嚥下困難、呼吸困難、四肢のしびれ等が起こる場合もあります。
顎関節症の原因
顎関節症には、4つの型があり、それぞれで原因が異なります。
Ⅰ型:咀嚼筋痛障害
顎を動かす筋肉の障害です。 筋肉痛みたいなものもあります。
Ⅱ型:顎関節痛障害
関節自体の痛みです。 顎関節の骨と骨の間にある、軟骨に似た構造(関節円板)を支える組織や、その周りの関節包・靭帯という部分に何かしら問題があり、「痛み」として現れるのがこの型です。
Ⅲ型:顎関節内障
関節の内部構造の引っかかりや運動障害です。 Ⅱ型との違いが分かりにくいと思いますが、先ほどの関節円板が元の位置に収まらない場合や、位置がずれて、「顎の運動機能」(開け閉めなど)に支障が出るのがこの型です。
Ⅳ型:変形性関節症
顎関節の骨の変形による痛みや運動障害です。 この型の場合、関節を元の状態に戻す事は困難で、変形しているなりに症状をなるべく取り除き、運動機能を回復させることが主な治療になります。 中には手術が必要なケースもあります。
Ⅴ型は?
インターネットで調べられた方は、Ⅴ型の顎関節症というのを見かけたことがあるかもしれません。 ですがⅤ型の顎関節症は2013年に廃止され、現在では分類されなくなりました。
顎関節症と一言で言っても定義は広く、病態を分類しながら治療方針を立てていきます。 顎が痛い、口が開きづらい、音が鳴る等の症状がある場合は、ほとんど顎関節症として診断されます。
顎関節症と似た病気
頭痛
頭痛と顎関節症は共通した症状が出ることがあるので、鑑別が必要です。
耳痛
顎関節症は、薄い骨1枚隔てて耳の内部構造と接しています。耳の症状を顎関節の痛みとして感じる事は珍しくありません。
関連痛
歯と顎は、痛みを感じる神経がおおもとで繋がっているので、神経の不調和で歯の痛みを顎の痛みとして感じたり、その逆も起こることがあります。
関節リウマチ
自己免疫疾患で、全身性の関節の変形や痛みが生じます。血液検査で確定診断ができます。
良性腫瘍・悪性腫瘍
顎関節や関連組織に腫瘍ができると、顎関節症と共通する症状が出ることがあります。
滑膜軟骨腫症
関節腔内に異常な軟骨ができ、口が開けづらい、開閉口時にジャリっと音がするなどの症状が現れます。
骨折
顎関節症とは区別して診断します。
顎変形症
先天性や発育不全などで上下の顎の骨が調和せず、かみ合わせが合わないなどの症状を呈します。骨切り手術と矯正治療を組み合わせて治す方法もあります。
筋突起過形成
下顎骨の筋突起という部分が増大していき、口が開く量がだんだん小さくなる疾患です。日常生活に障害がある場合は手術で治します。
口腔顔面ジスキネジア
運動神経の障害により、意識に反して顎を動かしてしまう病気です。
口腔下顎ジストニア
こちらも神経障害の一つで、意識に反して歯を食いしばるなどの筋収縮が起こる病気です。
顎関節症を放置するとどうなりますか?
ここまででお話ししたように、顎関節症は多くの場合で自然治癒することが知られています。 顎関節症状がある患者さん40名の自然経過を追った論文では、治療を行わなくても30名が治癒または改善したと報告されています(参考文献)。
しかし、顎に負担をかけるような悪習癖(よく頬杖をつく、毎回右側を下にして寝る等)がある場合や、関節や周辺組織の変形がある場合などは、そのままにしていても一向に改善しないケースもあります。 また、急に口が開けづらくなったケースなどでは、関節の整位やストレッチを行う事で一気に回復する場合もあります。
なので、やはり放置するよりは一度受診してみることをおすすめします。
顎関節症の治療はどんな事をしますか?
診断、病態説明
レントゲンや開口量、顎の動きと音、痛みの部位などを診査し、病態や考えうる原因を説明します。
生活習慣の改善
顎に負担をかけるような悪習癖を是正するための指導を行います。 特に、歯を食いしばったり、歯と歯を常に噛み合わせるような習癖があると、歯、顎関節、筋肉に負担がかかり、血流も悪くなるので、こういった習慣を正す方法(認知行動療法)などを提示します。 また、食事やその他習慣に関する注意事項を説明します。
顎関節の整位
関節円板(顎関節がスムーズに動くために上下の関節の骨の間にある、軟骨のような組織)が引っかかって口が開きづらくなっている場合は、適切な力を加える事で引っかかりを解除できる場合があります。 また、大きく開けた後に口が閉じなくなった(いわゆる「アゴが外れた」)場合は、適切な力を加えて元に戻します。
顎のストレッチ
ストレッチを行うことで、靭帯を伸ばして関節を動きやすくし、関節と筋肉の血流を改善し、関節腔内の潤滑成分の分泌を促します。
ストレッチ指導
院内で行うストレッチでは回数、頻度に限界があるので、自宅で行えるストレッチ方法を指導します。
代表的な方法は後日詳しく解説したページで紹介します。
マッサージ指導
顎関節に関わる筋肉の痛みやこわばりがある場合は、マッサージの仕方を紹介します。
代表的な方法は後日詳しく解説したページで紹介します。
スプリント(マウスピース)治療
夜間の歯ぎしりや食いしばりがあり顎関節症を悪化させているケースでは、歯ぎしり防止のマウスピースを作成します。 原則、就寝時のみ装着します。
マウスピースには次のような効果があります。
- 歯ぎしり・食いしばり自体を減少させる
- 顎関節にかかる力を軽減する
- 強い力から歯を守る
効果には個人差が大きく、劇的に改善する方もいれば全然変わらない方もいます。 費用は、保険の3割負担で5,000円程度です。
薬による治療
痛みが強い場合や、関節組織の損傷により炎症が起こっている場合は、鎮痛消炎薬の処方を行います。 周辺の筋肉のこわばりによって強い痛みが出ている場合は、筋弛緩薬を処方することもあります。
顎関節症の治療はいくらくらいかかりますか?
顎関節症の治療費の内訳は次のようになります。 いずれも保険適用3割負担の場合の料金です。
レントゲン (顎関節パノラマ断層撮影) |
1,200円 |
---|---|
マウスピース作製 | 5,280円 |
マウスピース調整 | 660円 |
顎関節の診察料 (月1回) |
160円 |
徒手的顎関節授動術 (開口障害のストレッチ) |
1,320円 |
顎関節脱臼の徒手的整復 | 1,230円 |
投薬について
症状に合わせて次のようなお薬を処方します。 いずれも、1週間分の投与で300円程度です。
- ロキソニン(痛み止め)
- カロナール(痛み止め)
- フルカム(痛み止め)
- ミオナール(筋肉のこりを和らげます)
徒手的顎関節授動術について
顎関節がひっかかって口が十分開かなくなった場合に、特殊なストレッチ(マニピュレーションなど)を行って口が開くように手助けします。 料金は1,320円です。
顎関節脱臼の徒手的整復について
いわゆる、外れたアゴを元に戻す処置です。 顎関節片方あたり1,230円かかります。
診察料について
マッサージやストレッチ、ホームケア指導、習慣指導などは、簡単なものであれば160円程の加算となります。
それと別に、初・再診料や歯科疾患管理料などがかかるので、初診1,500円程度、再診なら1,000円程度が別途かかります。
保険の範囲を超えたものは自由診療となりますので、まずはご相談下さい。
実際はこれらに加え、初診料や再診料、歯科疾患管理料などがかかります。
内訳では分かりにくいと思いますので、患者さんの具体的な症状に合わせて総額でいくらくらいかかるのかご案内します。
投薬で経過観察することになった場合
1回の診察で、2,500円ほどかかります。
マウスピースを作ることになった場合
2回の診察で、8,000円ほどかかります。
1回目で検査と型取りを行い約3,000円、2回目でマウスピースの装着・調整を行い約5,000円です。
開口障害が生じていた場合
上記の料金に、ストレッチの料金1,320円が加算されます。 ストレッチは初回のみ行って改善することもありますが、複数回行う場合もあります。
外れたアゴを元に戻した場合
1回目の診察で、3,500円ほどかかります。 両方の顎関節が外れていた場合は4,700円ほどかかります。
経過を見るためにもう一度来ていただき、この際は約500円です。
参考文献
お電話の前にご確認ください
おかげさまで多数のご予約・お問い合わせをいただき、大変ありがとうございます。
東京の方からご予約のお電話をいただくことが多いのですが、当院は福岡県の「六本松」にある歯科医院です。
おそらく東京都港区の「六本木」と勘違いされたのではないかと思います。
東京から来ていただけるならとても嬉しいですが、患者さんに移動時間・交通費など多大な負担をかけてしまいます。 お近くで歯医者さんを探してみてください。